「河獺」(横溝正史)

まるで怪談、香りたつ横溝テイスト

「河獺」(横溝正史)
(「喘ぎ泣く死美人」)角川文庫

「喘ぎ泣く死美人」角川文庫

「河獺が美しい若衆に化けて
綺麗な娘の許に通った。
という話が
昔からよくありますね。
私もこんな話を知っていますよ。
実は私もその事件に
関係した一人なんです。
今から二十五六年も
昔のことになります。」
そう言って久作老人は…。

その事件とは、
河獺の棲むという源兵衛池に
夜な夜な訪れていた
村一番の娘が絞殺され、
続いて二番目に美しい娘が
縊り殺されるという殺人事件です。
しかし時代はおそらく明治後期。
村人たちは当然、
河獺に魅入られたのだと
思い込んでしまうわけです。
古い因習に囚われた村。
まさしく後の作品のテイスト漂う
横溝正史の初期作品、
それも大正11年発表という
若書きの作品なのです。

【主要登場人物】
久作老人
…二十数年前の殺人事件を語る老人。
お蔦
…村一番の器量よし。
 継母に虐められる。
 源兵衛池で絞殺される。
お福
…お蔦の継母。
 お蔦の初七日の夜に絞殺される。
妙念
…精行寺の若い僧侶。久作老人の甥。
お米
…山番の一人娘。お蔦に次ぐ器量よし。
 源兵衛池で殺害される。

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今日のオススメ!

本作品の味わいどころ①
まるで怪談、老人の昔語り

構成は
「一、お蔦の話」(お蔦殺人事件)
「二、妙念の話」(お福殺人事件)
「三、お米の話」(お米殺人事件)
「四、久作老人の話」(解決編)と
4つに分かれています。
老人の語り口は
まるで百物語のそれのようです。
おどろおどろしさ抜群です。
初期作品にはコントも多いのですが、
本作品は完全に後期の横溝テイストが
香りたっているのです。

本作品の味わいどころ②
まるで祟り、でも殺人事件

二人の若い女性が相次いで源兵衛池で、
そして性悪な継母が
自宅で殺害されているのですが、
まるで祟り(河獺に憑かれた)のように
語られます。
でも、首を絞められたあとがあるので
完全に殺人事件です。
「三」を読み終えても
からくりは一向に見えてきません。
「四」で謎解きが行われるのですが、
何と未知の登場人物の犯行。
犯人捜しミステリとしては失格ですが、
しっかりと辻褄の合う犯罪小説として
成立しています。

本作品の味わいどころ③
まるで因縁、血で血を洗う

動機はいたって単純ですが、
因縁が絡み、肉親の情が絡み、
恋愛のもつれが絡みあいます。
この点も後の横溝作品の
複雑極まる人間関係の
萌芽とみることができるのです。

こんな素敵な作品が、
昭和の時代には単行本収録されず、
平成12年になってようやく
「未発表作品集」として刊行されました。
平成18年には(なぜ6年もかかった?)
文庫化されるのですが、
残念なことに杉本一文画伯の装丁画は
見送られています。
角川文庫さん、
せっかくの横溝作品です。
ぜひ杉本一文表紙での改訂版を
お願いします。

(2018.1.2)

〔追記〕
こちらもご覧下さい。

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

ぜひチャンネル登録をお願いいたします!

(2023.7.11)

〔本書収録作品一覧〕
河獺
艶書御要心
素敵なステッキの話
夜読むべからず
喘ぎ泣く死美人
憑かれた女
桜草の鉢

霧の夜の放送
首吊り三代記
相対性令嬢
ねえ!泊ってらっしゃいよ
悧口すぎた鸚鵡の話
地見屋開業
虹のある風景
絵馬
燈台岩の死体
甲蟲の指輪

Peter HによるPixabayからの画像
おどろおどろしい世界への入り口

【横溝正史:ノンシリーズ作品】

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